……へぇえ、駆け出しの物書きさんかい。アンタも変わっているねえ。こんな死に損ないに会って話を聞こうと思うなんて。

 でもアタシは嬉しいよ。アタシの話を聞く人なんて、もういないと思っていたのに、アンタが会おうと思ったから、こうして冥途に旅立つ前に、アタシの遺志を遺すことができるんだから。

 今日は、いい一日になりそうだね――。

 

 当時の大戦で、アタシは敵がばら撒いたウィルスにやられて、運悪く生き残って軍に目をつけられ、徴兵されて白百合になった。選択の余地はなかった。

 今の娘は、選択の余地はあるのに自分の意思で、長生きしてお国のために尽くすんじゃあなく、白百合になってお国に尽くそうとしている。ばかな考えだよ。白百合になったら、新しい家族をつくることができなくなる、っていうのにさ。

 どういうことか、って?

 アンタ、何も知らないんだね。白百合になると力が強くなる。傷の回復がとても早くなる。でもね、力の加減ができないと大変さ。

 アタシが若い頃は、白百合でも男女交際は禁止されていなかった。みんな普通に恋をして、相手を愛したよ。でも、白百合は恋愛をしちゃあいけなかったのさ。相手の手を握れば手を砕き、抱きつこうとすれば腰を折り、頭を抱えようとすれば首の骨を折り、酷い時には、まぐわった時に相手のイチモツをちょん切ってしまった時もあった。おや、前を押さえたね。

 そういったことが何度もあったから、自然、男たちはアタシたちから離れていった。アタシたちをまとめていたお偉方も遅まきながら、白百合が行く所を全て男子禁制にしたよ。アタシにはそういう人がいなかったからましな方だったけど、恋人が離れていく彼女たちを見るのは、つらかったねぇ。

 中には首ぃくくったり、水に入ったりした白百合もいた。でもなまじ頑強な分、長く苦しんで結局未遂で終わり、自死で死んだ白百合はいなかった。

 そう、白百合は自死じゃあ死ぬことはできない。死ぬときは、ウィルスに抵抗できなくて死ぬか、肉体が暴走して死ぬか、精神が暴走して死ぬか、殺されて死ぬか、寿命で死ぬか、のいずれかだった。

 アタシの場合、運良く力を使い切る前に両足を失くしてお払い箱。でも国のために働いたから恩給をもらって、こうして醜態を晒していることができるのさ。でも以降、アタシのように抜けることができた白百合はとんと聞かないねぇ。強化されていない、普通の女性兵の帰還や除隊の話は万と聞くんだけど。アンタはあるかい? ……そう、ないかい。きっと軍も要領が良くなってきたんだろうねぇ。手足を失くした白百合を利用する方法でも、思いついたんだろうさ。

 強くなることを希望して、なれなかった娘は幸せさ。普通が一番良い。軍に入っても除隊できれば、恋をして、愛し、結婚し、子を成す。殺すことも殺されることもない。こんな素晴らしい人生はないよ。

 え? おやおや。いきなり口から血を垂らせてしまって、驚かせたようだねぇ。久しぶりに長いこと話をしたもんだから、体が吃驚したんだろうねぇ。

 今日は、これぐらいにしておこうか。アタシがしぶとく生きていて、アンタさえ良けりゃあ、また昔話をしよう。