「皆、お疲れ様」

 午前の模擬戦闘を終えた私たちに、教官は言った。

「次の講習が終われば、あなたたちは正式に強化試験に志願する権利が与えられます。その強化試験に合格すれば、あなたたちが憧れている【白百合】に入ることができるのです。しかし、この講習を越えることができなければ、その道は絶たれます。言わば、この講習があなたたちの人生の分岐点となるでしょう」

 そこで教官は口を閉じて、私たちを見渡した。

……我々は決して強制はしません。ここであえて退くことで、一般人に戻るという選択をすることもできるのです。一分、決断する時間を与えましょう」

 一分後。

……ふむ。退く者は無し、ですか。わかりました。あなたたちの決意を認めましょう。では、これより最後の講習を始めます」

 その言葉が終わると共に、スタッフが大きな籠を複数持ってきた。中には籠一つにつき数匹のウサギが入っている。

「まずは、一人一羽ずつウサギを手にしなさい」

 言われたとおりにする。最後に教官も一羽のウサギを赤子のように抱えた。

……行き渡りましたか。では最後の講習です。各人、今からそのウサギを捌き、自ら焼いて食べなさい」

 大きなざわめきが起きた。この円らな瞳をした小動物を殺し、食べる。その一連の行為には、どうしたって強い抵抗が生まれてしまう。

「できないのですか。やり方がわからないのなら、私が手本を見せましょう」

そう言うと、教官はウサギを逆さに持ち、ナイフで首を掻っ切った。吹き出た血に私たちはただ無言になる。

「充分に血抜きが済んだら、次に皮を剥ぎます。血抜きにはある程度の時間がかかるので、遅くなればなるほどあなたたちの食事も遅くなりますよ」

 それでも、私たちの中に先陣を切る者は出ない。

「あなたたちの覚悟は、その程度なのですか」

 非難するようではないが、教官の声に強い重みが加わった。

「この講習の課題は三つ。生き延びることとは他の何かを犠牲にする、または奪うということを理解すること。相手の生命を奪うことに覚悟を持つこと。死体が焼ける臭いに耐性を持つことです。【白百合】に入隊したあなたたちが戦闘を行う相手は、一部を除いて好き好んで人殺しをしているのではありません。彼ら末端は、自らの意思でなく、上からの命令で人を殺すのです。そんな彼らを哀れんで殺さなければ、あなたたちが殺されます。そうなれば次は一般人が殺されたり、殺されなくても酷い目に遭ったりします。殺さなければ殺される。相手の全てを奪うことで、私たちは生き続けることができるのです。その覚悟ができなければ、無理強いはしません。ウサギをスタッフに渡して去りなさい」

 最後通牒だった。一人が意を決してウサギの首を掻っ切る。一人がウサギをスタッフに渡してここから消える。一人一人が決断し行動した。

 同室で少し仲良くなった娘が消えた。隣にいた娘も消えた。私は……私は……私は……私は……………………

 

 強く、ナイフを握り締め、ウサギを押さえつけて――