SS第8話 昼間、あれだけ騒がしかった蝉もようやく落ち着き、陽が傾いて 薄い闇にほんのりと朱を差している。 私は、里で買ってきた大量の荷物を縁側に置く。と、 「霊夢〜。それはお酒かっ!?お酒なのかっ!?」 萃香が目を輝かせながら、飛びついてきた。 「ちょ、ちょっと萃香っ!!あんた天界にいるんじゃなかったの?」 しがみついている萃香を引き離す。 「宴会をやるって聞いたから、帰ってきた。皆とやるほうが楽しいしな。  それより、霊夢さっき降ろした荷物、やっぱお酒だろっ!」 萃香の無邪気な声が喧しい。せっかく蝉が鳴きやんで、静かになったと思ったのに……。 「そうだけど、萃香。まず先にやるべきことがあるでしょ。それをやってからね。」 そう萃香をなだめて準備に取り掛かる。 二人で準備を進めていく。とはいっても萃香は半人分くらいの仕事量しかこなさないのだが…。 準備が大方済んだ頃から、ちらほらと人影が神社に見え始めてきた。 冥界の亡霊やその従者、人形遣いに、白沢などといつもの顔触れである。 だが、天子と衣玖までいるのは、どういうことだろう。 「あんた達、何でいんのよ?」 「あら。あんたんとこの鬼が天界に入り浸ってるのに、私達がここに来ちゃ行けないという  理由はないはずよ。」 天子が屁理屈をいい、 「私は、ただの付き添いです。」 にこやかに微笑んでる衣玖。 「あんた達ね……。」 どうでもいい会話を続けていると、今回の件の発端である吸血鬼たちがやってきた。 しかし、何も持っている様子はない。 私は、近づいていくと、 「あんた達、花火とやらはどうしたのよ?」 まず、最初に疑問に思ったことを口にした。 「それが、何かの手違いで全部爆発してしまったようなの。ごめんなさいね。」 悪びれた様子もなく、レミリアのそばの咲夜が答えた。 私は、一瞬呆然とした後……、ぶちぎれた。 「はぁ!?何言ってんのよ。誰のおかげで、花火大会やるとかで、こんなに手間と労力をかけて  準備したと思ってるのよ。△□※▲○×……。」 私は感情に任せて怒鳴り散らした。その時、 「ちはー。」 場違いなあいさつとともにその場に現れたのは魔理沙だった。 その登場に私は怒りを削がれ、半ば呆れつつ 「あら、魔理沙。あんたにしては遅いご到着ね。」 しかし、怒っているとこを見られたらしく 「どうした、霊夢。そんなに怒って。」 と、言われる始末……。 「どうしたもこうしたも…。こいつらが肝心の花火がないって言うのよ。そりゃ、   怒りたくもなるわよ。」 魔理沙に愚痴をこぼす。 「そういうことか。でも、花火ならここにあるぞ、ほら。一発だけだけどな。」 平然と言って、差し出された物は一個の大きな丸玉だった。 私は花火がないと聞いた時よりも、魔理沙が作っていたことに驚いたが、 どうやら驚いているのは私だけのようだった。 レミリアはにやにや笑ってるし、咲夜は含み笑い、パチュリーは無表情だけどどこか楽しんでる節がある。 そして、いちばん楽しそうな魔理沙が 「一発しかないが、まあ楽しもうぜ。花火大会。」 そう言うのに 「そ、そうね。」 私はまだ混乱したままだったが、うなずき返すのだった。 ほろ酔い気分に酒がまわり、周りがにぎやかな喧騒に包まれたころ、その一発の花火は上った。 それは……とてもとても大きかった。(私は今まで花火というものを見たことはないが) そして………とても綺麗だった。 優美とか優雅とかいろいろ言葉はあるだろうが、綺麗と言うのが一番合っている。 みれば、あれだけ騒がしかった皆も、花火の音が消えた後はその余韻に浸るかのように 静粛としている。 私は神社の縁側で物思う。 私は、今日というこの日を絶対に忘れないだろう。 魔理沙が皆の思い出の中に『花』を植え付けたこの日を。 そして、次に起こるであろう、また新たな何かも。 私が未来のことに思いをはせていると、花火を打って帰ってきたらしい魔理沙が呼んでいる。 私はそれに答え、まだ来ぬ未来より、今ある今日という特別な日を思い切り楽しまなきゃ、 そう思い、皆の元へと向かって行く………。        Fin………