本編〜第5話

 俺の名前はソリッド=スネーク、俺はこの町唯一の常識人だ。周りは皆変人だ。その変人の騒動に望んでもいないのに巻き込まれてしまった。
 さて、ひょんな事で動き出してしまったドリシーだが成り行きでこいつを破壊しなくてはいけなくなってしまった。だがどうやってこんなでかい機械を破壊すりゃいいのだろうか。俺には思春期の男子にはかかせない「アレ」しか持ち合わせていない。とりあえず「アレ」を見せてみるか……。
 俺は懐から「アレ」を取り出してドリシーに対して見せびらかした。
「アアン!」
 え、何……?
「あなた、いいわ……」
 もしかして、こいつ……。ページをめくってさらに見せ付ける。
「なかなかやるわね」
 中にいるエルザ(?)が悶えている。ならばどんどん次のページをめくって見せ付けてみよう。すると突然、エルザ(?)が悲鳴をあげはじめた。なんだかヤバイ状況になっている。
「エルザ、脱出しろー!」
 だが次の瞬間、ドリシーは大爆発を起こしてしまった。
「エルザ、すまない……」
 俺が呆然としていると、周りから声があがった。
「ドリンクバーが……負けた!」
「生身の人間が、ドリンクバーを破壊するなんて……」
「もうお終いだ! 俺達の野望は……」
 そこにいた全ての従業員達が、伝票を捨てて降参しはじめた。だが、突然スーツを着た社長、ジーンが高笑いをし始めた。
「素晴しいぞスネーク! ウルスラが乗ったキャサリンを破壊するとは」
「もういい! お前のドリシーは破壊した!」
「私のキャサリンを破壊した? さて、何のことかな?」
「何!」
 ジーンは左手を大きくあげて、演説を始めた。
「聞け! 全ての従業員達よ! 経戦(経営戦争)はやがて終わる! 株式合衆国、そして有限ソビエト……。彼らにはもはや業界を導くだけの力も権威も残されていない。泥沼と化したベトナム経戦にアメリカが苦しんでいる間、西側同盟店舗の売り上げは飛躍的な増加を遂げた! そして、計画経営の破綻によって、ソ連にはこれ以上の営業に付き合う余力がなくなった! だが、経戦が終わったからといって平和が訪れるわけではない。親会社からの支配から解き放たれ、これまで抑えつけられていた諸店舗の営業主義は、活発化するだろう! そして、給料の差を拡大が、互いの憎しみを煽る! 親会社からの管理から外れて世界中に拡散する鬼上司、それらがいつ、どこから飛ばされてくるかわからない時代が訪れる! 例え同グループの店舗であろうが、いつ客になってもおかしくない! それどころか、同じ店の従業員同士が競い合う時代が訪れるだろう。今のお前達のように! 昨日までの隣人が、友人が、家族が、お前にコーヒーをかけるかもしれない!」
 社長まで訳のわからない事を言っている。本当にまともな人間がいない。取りあえず、言っておこう。
「黙れ、ジーン!」
「お前を恨んでいる人間はいないか!? お前を馬鹿にしている人間はいないか!? お前は本当に誰かに必要とされているのか!? お前をクビにしてやりたいと思っている人間は、本当に誰もいないのか!?」
 一人の中年フリーターらしき従業員が頭を抱えて怯えている。クビにされたら仕事をさせてもらえる場所がないのだろう。よし、このおっさんのためにもう一度言っておこう。
「やめろ! ジーン!」
 だが、ジーンは不敵な笑みを浮かべると、演説を再開した。
「私の部下がお前達の中に紛れているぞ、私を裏切ったお前達をクビにするために!」
「嘘だ! だまされるな!」
 俺の声は全く届いていない。それどころか、おっさん達は、やめさせられる、やめさせられる、と怯えながらつぶやいている。
「おいしっかりしろ! あいつの声を聞くんじゃない!」
 ジーンは俺の声を無視して続ける。
「お前達の客は、お前達のすぐ傍にいる! お前か……。いや、お前だったか? この業界は、突然の苦情に怯えている、巨大なお店のようなものだ! 業界は、たやすく壊れてしまう! たった一杯のコーヒーで! いやー! ただ一杯のお冷で! いたぞ……。お客様だ!」
 ジーンのその声を合図にして、従業員達が一斉に「いらっしゃいませ! こんにちは!」と言いながら、どこから取り出したのか、コーヒーを持っている。それを何故かお互いにかけあっている。何のお祝いだろうか。
「客、誰が客なんだ!」
「本当にかけてきやがった!」
 湯気が出ているほどの熱々のコーヒーを、笑いながらかけあっている。誰かに見られたら変人の集団だと思われるから止めておこう。
「やめろ! やめるんだ! あっち! やめされろ、ジーン!」
「止めたければ自分で止めてみたらどうだ、スネーク。弾道ドリシーの準備は整った。これでここはもう必要ない」
「だから部下をクビにするのか!」
「私がクビにするのではない。人間が自らを滅ぼすのだ。あまりにも凶暴で、愚かでもろい! よく見ておけスネーク、これが店員の招待だ……」
 すると、キャンベルが説得した男が走りながら俺に向かってくる!
「スネーク危ない! あっち!」
 ジーンは都営バスに乗ってどこかに飛んでいってしまった。
 惨劇の場だった。あたりにはコーヒーと破損したカップがそこらじゅうに散らばり、従業員の傍には「リストラ」と書かれた一枚の書類、それはジョナサンも同じだった。あんなに仕事の熱心なジョナサンだったのに。
「うおおおおおお!」